共助社会づくりシンポジウム in 関西 基調講演 開催レポート

目次

  1. はじめに
  2. 共助社会づくりとは
  3. 国土・地域政策と人の繋がり
  4. NPO等の役割
  5. 市場の創出等の経済効果
  6. 共助社会づくりの課題と対応

基調講演資料

奥野 信宏 (PDF形式:1,903KB)

共助社会づくりシンポジウム in 関西 基調講演 講演者 プロフィール

ページトップへ

1. はじめに

昨年春、内閣府に「共助社会づくり懇談会」が設置されました。目的は、地域における人のつながりを再構築し、共助の活動を推進して、先進国にふさわしい安定化した社会を作ることです。今日は懇談会で行われている議論を説明し意見をいただいて、これからの議論と対策に活かしたいと思います。

ページトップへ

2.共助社会づくりとは

共助社会づくりシンポジウム in 関西 基調講演1共助社会づくりで鍵となるのは、「全員参加」と「共助」の精神です。その理由は第一に、人や組織のつながりがしなやかに強い安定した社会の構築に寄与すること、第二に、地域を活性化するために、新たな市場の創出・拡大、雇用の拡大、寄附文化の醸成に寄与することです。安倍総理は所信表明演説や施政方針演説、成長戦略スピーチで、全ての人材が、それぞれの持ち場で、持てる限りの能力を活かすことができる全員参加こそが、これからの「成長戦略の鍵」であると述べられています。

今日は、第1に人や組織の繋がりがしなやかな強さを持つ安定した社会を構築するということ、第2に新たな市場の創出・拡大、雇用の拡大に寄与すること、そして第3に寄附文化の醸成への寄与の3つについてお話しします。

全体を通じたキーワードは「人の繋がり」です。まず、人や組織のつながりがしなやかな強さを持つ安定した社会を構築するということについてお話しします。リーマンショックの後、市場経済に対する批判が厳しくなりました。市場経済は、人類の知恵の結晶のようなもので、よくできた制度だと思います。しかし完璧に機能してもできないことがあります。格差の改善や大規模災害からの復旧などは市場経済に期待しても無理です。これを市場の失敗と言います。市場の失敗を補完するのは行政の役割ですが、行政にも人手や予算の制約、公平性の縛りがあり、できないことがあります。これを政府の失敗と言います。市場と行政が機能するにはそれをベースとして支える社会が必要です。社会というのは詰まるところ「人の繋がり」です。

人の繋がりは、かつての日本社会には強くありました。ところが、高度成長の過程で弱体化し、崩壊していきました。高度成長の真只中の昭和40年頃には、すでに中国山地などでは過疎化が急速に進行し、日本の農村はやがて社会として機能しなくなるといわれていました。それは意外と早くやってきて昭和50年ごろには機能しなくなった農村社会が全国で至るところでみられるようになりました。一方、人の集まった大都市圏では、隣の人の素性はおろか名前も知らないまま過ごすというのが日常化しました。

その他方で、人のつながりが大事なのではないかという意識や活動が底流で出ていました。それが一気に表面化したのが、阪神・淡路大震災です。その直後にNPO法が成立しています。さらに東日本大震災の後にも被災地では「絆」という言葉がよく聞かれます。

ページトップへ

3.国土・地域政策と人の繋がり

国土政策の基本理念は、「交流・連携が生み出すダイナミズム」という言葉で表すことができます。国土政策では、人のつながりは交流・連携という言葉で表しています。人の交流・連携が新しい価値を生み出す源泉だということです。例えば飛騨に高山という町がありますが、今は全国的に有名な観光地になっていますが、あの山間地で何故あれだけの富が蓄積され、文化がはぐくまれ、人材が育ってきたかです。ひとつの大きな理由は、そこが江戸時代から5つの大きな街道の交差点になっていたということです。そのような宿場街、港町は全国に至る所にあって現代に生きています。現代の都市も、こういう交流・連携の場を提供するところだと思います。

日本の国土計画は、昭和37年の第一次から始まって平成10年までの第五次の全国総合開発計画、そして平成20年には第6次の国土計画である国土形成計画が作られています。昭和52年の第三次までの基本的な考え方は、地方に開発拠点を設けて大都市圏との交通網を整備し、発展の成果を地方に波及させることで、ハードの整備が中心でした。しかし昭和62年の第四次から別の要素が入ってきます。多様な主体が参加して地域を作るということです。平成10年の第5次では、内容がさらに具体的になり、「地域住民やNPO、企業等多様な主体が参加して地域を作る」と謳われています。平成20年に発表され、今も動いている国土形成計画では、「多様な主体」は「新たな公」と呼ばれました。それが国の5つの基本戦略の1つとされ、他の4つをベースとして支える非常に大事な位置づけがされました。「新たな公」はその後、政府では「新しい公共」と呼ばれ、今は「共助社会」という名前で施策が進ん でいます。

ページトップへ

4.NPO等の役割

共助社会づくりシンポジウム in 関西 基調講演2NPO等の多様な主体の活動が、地域の活性化において果たしている役割は大きく2つあります。一つは行政機能の代替・補完です。行政機能の代替というのは、行政が提供すべきサービスを住民が自分たちで提供する活動です。例えば道路、公園、河川の維持管理です。また大合併で役場の機能が大幅に縮小したところでは、役場や農協のOBが地域の企画立案機能を担い活動したりしています。行政機能の補完というのは、行政が提供すべきとまでは言えないが、公共的価値が高い活動のことです。例えば古民家の復元、地域文化の保存、地域の子供の教育、地域見守り隊などの介護活動などです。

これらの活動がないと日本の地域社会は動かないというまでなっていますし、被災地でも大きな役割を担っています。 これらの活動は、行政の援助を得て、ボランティアで実施されていますが、もう一つ大事なのがソーシャルビジネスです。これは財政的に自立して、社会的な課題を解決しようというものです。地域の特産品の開発、観光資源の発掘・事業化、関西などの大都市ではエリアマネジメントなどの街づくりも活発です。財政的に自立して多面的に街づくりの活動を、ソフトだけでなくハードも実施しています。

ソーシャルビジネスも、ビジネスを実施しようとするとNPOよりも株式会社の方が便利だということで、株式会社組織で活動している方もたくさんいます。例えば定款で利潤が出ても株主の間で配当せずにその事業に再投資するとか、解散するときに残余財産があっても、株主の間で山分けせず、志を同じくする人に譲渡するということを書いている株式会社などがあります。また別の例として、東京に「世田谷ものづくり学校」というのがあります。廃校になった中学校の教室を、デザインを中心として起業する方に貸し出しています。そこでは2つの理念を掲げています。一つは学校の中のコミュテニィを作ることです。教室のドアを閉めて部屋の中にこもらないで、積極的に交流し連携しながら、新しい会社を起こしていく。もう一つは、かつては学校ですから地域コミュニティの核でしたので、地域の子供や住民の方々が気軽に遊びに来られるような仕掛けを作っている。株式会社であっても新たな公として多様な形があります。

東日本大震災でも大きな役割を担っています。例えば釜石プラットフォームサービスという会社は、震災直後にキッチンカーを連ねて釜石に入り、広場に並べてサービスを始めましたが、それ以降、地元の人が参加して、今でも釜石の復興の核として幅広い活動をしています。

前に述べた行政機能の代替・補完の活動も、ソーシャルビジネスも、鍵として「人の繋がり」が共通にあります。行政機能の代替・補完の活動は地縁的なつながりが多いですが、ソーシャルビジネスは地縁的なつながりだけではなく、人びとの共通の関心でも繋がっています。

ページトップへ

5.市場の創出等の経済効果

次に第2の新たな市場の創出・拡大、雇用の拡大についてです。多様な主体の活動のうち、ソーシャルビジネスの部分についての経済規模ですが、経済産業省の研究会による推計では、2008年でソーシャルビジネスの部分だけで雇用3.2万人、市場規模2,400億円としています。イギリスでは2005年のデータですが、雇用77.5万人、市場規模は当時のレートで5.7兆円で、日本の23.4倍です。この数字を見て、国は違いますが、イギリスの経済規模で換算すると日本でも近いうちに100万人程度の雇用になるのではないかと思いました。昨年、内閣府が行った推計でも、急速に伸びていて、経産省の推計移行の2012年の4年間で、雇用と市場規模は約10倍になっていました。

先ほどの行政機能の代替・補完的な活動は日本では根付いてきたと思います。今、ソーシャルビジネスがずいぶん大きく成長している時期です。もう一つ付け加えると、これらの活動にとって重要なのは中間支援組織です。これもここ数年ですが、ソーシャルビジネス的な活動で大きく伸びてきています。

ページトップへ

 6.共助社会づくりの課題と対応

共助社会づくり懇談会では、去年の夏前からは、人材・資金・信頼の3つのワーキングに分かれて議論をしてきました。

第一番目に人材育成です。NPO法人自身も、市民も、ともにNPOの人材不足を認識しています。特に、ビジョンの提示、事業計画の策定等、専門的なノウハウを持つマネジメント人材が不足していますし、スタッフなど、マネジメント人材以外の人材も育成する必要があります。人材育成のために、各専門分野に特化した内容の専門講座の実施とその後の現場での伴走的な支援の実施、成果評価を行い発表する公開セミナー等が必要です。また最近全国の大学で、政策系の学部・大学院がずいぶん増えていますが、そこでNPO等についての授業が広く実施されるようになることも大事だと思います。

人材の流動化については、企業をはじめとする他セクターからの担い手の参画、大学や行政とNPOとの人材交流もこれからです。また中小企業にとってはNPO等との連携によってソーシャルビジネスへ参入する機会ができますし、自ら競争力を高めることにもなります。NPOと企業がパートナーシップを組んで事業をすることが大変に増えてきました。しかし、まだ人材交流をするまでには至っていない。人材交流をすることによって中小企業にとっても新しいビジネス機会が開ける可能性がありますし、お互いにメリットがあると思います。

ソーシャルビジネスに携わっている方の一番大きな問題はキャリアパスがないということです。各地方でそういう方々と話をすると、やりがいがあるし、別に給料は安くていいと言われますが、将来のことを思うと胃が痛むとも言われます。大学がそういった方を大学院に受け入れて博士号を出すということが大事です。そして大学の教授になったり、経済団体や役所の専門家として職を得て活動していただくことです。大学での目下の問題は、博士号を出すには指導しなければならないが、指導できる人が日本にはそんなに多くなく、指導できる教授を育成しなければならないということです。

二番目に資金の問題です。調査によると市民の自主的な活動としてNPOに期待する人の割合は90%を超えていて、その役割として人と人との繋がりをつくることとする人の割合が最も大きくなっていますが、活動に対して寄附をしたいと思うと回答した人は23%と、そんなに多くはありません。最近、市民ファンドが急速に増えていますが、市民から十分な寄附を集めることができない団体も多く、地域に一定の影響力を持つ団体は限られています。

融資については、個人からの借入が7割で、金融機関からの融資が受けられていないという状況にあります。金融機関のNPO等に対する理解は不十分で、デフォルト率が低いにも関わらず、一般には貸し付けのリスクが高いと誤解されている。しかし徐々にですが、信用金庫や労働金庫等から理解が進みつつあります。

これらの課題に対しては、各地域に共助社会の場をつくることが有効だと思います。行政や地域金融機関、商工会議所・商工会、税理士、公認会計士、大学・専門学校等の学術機関、NPO等、市民ファンド、NPOバンク等が集まって交流・連携する場を各地域に作ることです。共助社会のプラットホームという呼び方でもかまいませんが、そういったものを作っていくことが大事です。

最後に信頼性の向上ですが、まず情報開示の在り方の問題です。NPOのデータベースは民間にもいくつかありますが、それぞれ更新される時期が違うので、あるNPOのデータを集めようとすると、それぞれ書いてあることが違い、良い情報が得られない。また行政が有するNPO法人情報へのアクセス環境も不十分です。内閣府のポータルサイトにNPOのデータが集まっていますが、使い勝手が悪く、リンクを張ることができない。またNPO法人についてはポータルサイトで情報がえられますが、社団・財団等の公益法人については別のサイトが開設されていて、別々で使い勝手が悪いということもあります。NPO法人と社団・財団等の公益法人の基礎情報に関する横断的な情報提供をしてもらう必要があります。

次に会計情報ですが、複式簿記をつけているNPO法人はほとんどありません。NPO会計基準が作られましたが、その普及に努めなければならない。会計情報がしっかりしていなと寄付や参加を募ることはできません。

NPO法人への指導・監督についてですが、一部の信頼を棄損するような団体がありますし、休眠法人を放置されており、これらを監督するのは政府の役割です。

三番目に寄附の問題です。日本ファンドレイジング協会の寄附白書によると、2012年の個人寄付総額は6,900億円強で、東日本大震災のときは1兆円を超えました。阪神・淡路の時もだいたい6,000億円くらいでした。1兆円くらいまで寄附を増やせないかということで、平成26年6月2日に第1回共助社会づくり推進のための関係府省連絡会議が開催されました。赤い羽根募金や緑の募金など、日本に寄附文化がないわけではないが、一般の人が幅広に日常的に寄付に接する環境が整備されていないということだと思います。個人寄付の分野も、宗教、災害支援、国際協力、教育、行政などは多いですが、NPOの活動分野にはそんなに多くない状況です。性別・年齢別で見ますと、20代が少ない。年齢が上がるにつれて、だんだん多くなりますが、この要因は、学校教育でNPO等についての教育や共助社会についての教育が必要なのだろうと考えています。

それから女性の方が男性よりも多い。40代、50代だと10%以上違いますが、男性は小遣いなのでなかなかとできないということでしょうか。

NPO法人に対する寄附意識ですが、寄附をしたいと思わない理由は、寄附した後の効果が見えにくい、経済的に余裕がないこと等です。寄附をする際に重視する点としては、目的や活動内容が共感できること、有効に使ってもらえることですが、これらについて改善するには、先ほど説明したNPOの課題等を克服していくことが大事です。

日本のNPO、多様な主体による活動は、私は離陸したと思いますが、テクオフはしたけれども発展途上です。発展途上で現在急激に成長しているところです。こういう活動は、めいめいが好き勝手に楽器を持ち寄ってきて、好き勝手に吹き鳴らしているということに命があります。そういったことに配慮して行政にはNPO等の活動をうまく支援していただきたいと思います。

ページトップへ