共助社会づくりシンポジウム パネルディスカッション【2】 – 1

パネルディスカッション【2】 「共助社会の寄付文化 – その生まれ方と育て方」

共助社会づくりシンポジウム パネルディスカッション【2】 様子2

目次

  1. 寄附の現状について
  2. 15年前と今を振り返って何が一番変化したか。
  3. これからの15年、何を見据えているのか。世の中の寄附に関する環境変化の予測等について

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1.寄附の現状について

【鵜尾氏】
現在、日本の寄附の市場規模は、年間、個人で5000億円、法人で5000億円、合計1兆円ぐらいです。震災の時はこれに6000億円ぐらいプラスされ1兆6000億円ぐらいになりましたが、私達にはこれを10兆円の時代にしたいという夢があります。

アメリカの寄附のマーケットは、個人だけで年間25兆円ぐらいあると言われていますが、日本人の善意の社会や日本が抱えている課題等を考えた時に、行政に依存しすぎない、民から民への社会を作ることが大切だと思います。10兆円の社会というのは、子供達が社会のためにチャレンジして良い事をやろうと思った時に、応援があると信じられる社会であり、障害を持った方や高齢者の方も、助け合いが当たり前という社会だと思っております。

このような社会の実現を考えた際に、NPOや社会のために活動している人々が、御支援をいただいた時に、それをきちんと報告して、支援して良かったと思っていただけるようなコミュニケーションができているのかということが気になりました。この仕組みを国際的にはファンドレイジングと言います。

こうした中、ファンドレイザーの養成、寄附社会の推進を目的に、5年前に日本ファンドレイジング協会を立ち上げました。この5年間で10の「日本初」を達成いたしましたので、その中で4つほど紹介したいと思います。

1つ目は「ファンドレイジング日本」というイベントの開催です。1000人ぐらいの方々に集まっていただき、支援者の方に喜んでいただく方法や、お金が流れて行く国内・海外の事例を共有いたしました。2つ目は「認定ファンドレイザー」という資格制度です。体系に基づき、倫理を守って、寄附者に満足感を持っていただけるようなことを行える人を認定していこうという制度です。3つ目は寄附市場の拡大を目的とした『寄附白書』の発行です。そして4つ目は、全国で子どもたちを対象に寄付の教室を開催しています。 先進国の中で、これほど寄附教育を行っていない国も珍しいと思います。

こうした取り組みを通じて、NPOもだんだんコミュニケーションの力を付け、今後5年、10年間でようやくお金が流れていく社会ができていくのではなかいかと感じています。
 
【岩附氏】
私は大学3年生の時に、メキシコで児童労働という問題に出会いました。その時に怒りややるせなさを感じたのですが、日本に帰ってきて児童労働に反対するグローバルマーチというムーブメントに出会います。世界中の人達が児童労働を無くすという思いをもって、世界5大陸8万キロを練り歩く、この担い手を日本で探していたのですが、日本の既存のどこも手を挙げなかったので、ACEという団体を設立しました。本当は6ヶ月限定で解散する予定でしたが、色々うまくいって現在に至っております。

児童労働に従事する子ども達に出会い、子どもに夢も希望も持てないようにするのが児童労働なのだと実感しましたが、世界には今、1億6800万人の児童労働者がいます。世界で9人に1人の子どもが児童労働を行っていることになります。これだけ多くの子どもたちが、学校にも行けず、働かざるを得ず、健康や夢を奪われているのに、私たちはそれを黙って見過ごしているのが現状です。

ACEはインドやガーナで活動しているのですが、これらの国々の児童労働者は60%が農業分野で働かされています。児童労働はインドが一番多く、アフリカは5人に1人が児童労働に従事しているという状況です。コットン、カカオという原料に焦点を当てており、産業別に取り組むことで、自分たちが消費しているもの、つながりを通じて解決できるのではないかと思っています。

現地では、地域の人たちと一緒に、どうしたら子どもたちが学校に行けるかと考えることから始め、行政と連携して自立を助け、プロジェクトが終わっても効果が続くような仕組みづくりをしています。

日本での主な活動の一つが寄附集めですが、その一つとして、「しあわせを運ぶてんとう虫チョコ」という寄附付き商品を販売しています。また、森永製菓さんと共同で、1チョコ for 1スマイルというキャンペーンを行ったりしています。

【長岡氏】
私は2004年から、民間の教育施設を長野県上田市で運営し、若年者支援の活動を続けております。年間80万人無業者がいるという今、無業状態の若者をどのように社会に復帰させていくか、無業状態になる前にどのように予防していくのか、そして予防するためにどのようなスキームを必要とし、自分たちで独自の事業を展開するのか、それとも国の政策と一緒に実施していくのかということを10年間行ってきました。

私は高校の教師を辞めてこの活動を始めましたが、現在では常勤職員は20名を超えており、人材育成は現場が続いていくためには必要なことだと思っていますし、また、寄附者、支援者をきちんと増やすためにはどうすべきか、ということをこの5年間、集中して考えてきました。

寄附を集めなければNPOの意味がない、この部分にこだわり、支援会員が拡大した結果、定期寄附を可視化してくれました。現在、年間1万円を寄附していただいている支援会員の方々が100名を超えていまして、これをどう定着させるかを試行錯誤してきました。現在の会員継続率は95%です。

寄附会員の拡大を目的として実際に行ったことの一つが、オンライン寄附の制度の創設です。世界各国からNPOの寄附につながっていけるので、これを導入してから一気に会員数が100名超えました。加えて、Tシャツやトレーナー、農産物の加工品などの寄附付き商品の開発を行い、年間の寄付総額は100万円を超えています。さらに寄附付きイベントなども展開しています。また、数年前に火災に遭ったのですが ネット寄附により、たった数ヶ月で1,000万円を超える寄附が集まり、新校舎で再スタートすることができました。

私たちは毎年支援、定着寄附が重要だと考えています。寄附したいというきっかけづくりはNPO側の努力、責任でもありますが、「支援者」から「寄附をしていただける人」への転換、このような人をどのように集めていくのかが今後の課題だと思います。

その具体的内容は曖昧だったわけですが、91年に経団連が制定した企業行動憲章の中で、「企業は良き企業市民として、積極的に社会貢献活動を行う」ということを提唱しています。それを具体化する組織として1%(ワンパーセント)クラブが位置づけられているわけです。

【佐藤氏】
インターネットで寄附を集めるサービスがジャスト・ギビングです。日本では2010年に始めてから、10億円ぐらいが集まりましたが、イギリスにある本家ジャスト・ギビングは寄附を仲介する一つのサービスだけで昨年450億円ぐらい集めています。イギリスでは始まって13年が経っていますが、日本でも13年が経った時に、寄附を取り巻く環境がどれくらい変わっているのかということが今から楽しみです。

NPOは受益者負担の原則が成立しない領域です。NPOも株式会社も売り上げがないと倒産するわけですが、株式会社は受益者がお金を払ってくれるのに対し、NPOはサービスの受益者ではなく、寄附者や行政、ボランティア、企業等の別の人、支援者がお金を支払ってくれるわけです。また、今さらの話ですが、株式会社が売上や利益を追求するのに対し、NPOは問題の解決が問われます。NPOは人々の意識と行動を変えるために存在し、一人一人の心に火をつけることが仕事だと、この15年感じました。また、寄附を集めるという行為は、一緒にやろうという呼びかけにもなっており、お金集めと人集めを同時に行う行為がファンドレイジングなのだと解釈しております。

さらに、日本には寄附文化が無いのではなく、寄附の「ツール」と「ルール」が足りなかったのではないかなと感じております。

 

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